今回は「輸液」について学んでいきましょう!
さっそくですが、問題です!
<問題>
術後患者のドレーンから多量の血性排液が認められ、血圧が低下しました。
血圧80/55mmhg、心拍数120回/分、呼吸数22回/分。
急いで、医師に報告したところ、「診察にいきます。下肢挙上して、〇〇(輸液製剤名)を全開投与してください」と指示をうけました。
「この〇〇にあてはまる輸液製剤を、次の中から一つ選んでください!」
➀生理食塩液
➁5%ブドウ糖液
➂3号液(ソリタT3)
シンキングタイムは3秒です!
答えは・・・・
①生理食塩液でした。
なぜ生理食塩液なのか?
5%ブドウ糖液や3号液は、なぜダメなのか?
理由がよく分からない!って思う方は、一緒に学んでいきましょう。
輸液は、医師がオーダーするものですが、実際に投与しその後の観察を行うのは看護師です。
各輸液製剤の特性を理解できていれば、
特に、急変時には迅速に必要な輸液製剤の準備ができ、よりタイムリーな援助につなげることができると思います。
それでは始めていきましょう!
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体内の水分の割合
輸液を理解するうえで、まずおさえておきたいことは「体内の水分の割合」です。
人の体の60%は水分でできていると言われています。
つまり、体重の60%が体内の水分量となります。
この60%は、次のような割合になっています。
40%が細胞内液、20%が細胞外液。
さらに細胞外液は、15%の間質と、5%の血管内に分けられます。
体の中の水分、はこれら3つのコンパートメントに分かれています。
比率にすると、
細胞内液、間質、血管内は「8:3:1」となります。
この「8:3:1」はめちゃめちゃ大切なので、是非覚えておきましょう!
では、
冒頭の問題を思い出してください。
この状況では、
術後の出血によって循環血液量が低下し、血圧低下をきたしています。
この状況のような血圧低下に対して輸液投与を行う際は、
喪失した血漿の分だけ水分を補いたいですよね。
つまり、「血管内」に水分を入れたいですよね。
この時の輸液投与に、なぜ「生理食塩液」が選択されたのか?
その理由をみていきたいと思います。
キーワードは「半透膜」と「張度」です!
半透膜:細胞膜と毛細血管壁
それでは、下の図をみてみましょう!
体の中の水分は、
「➀細胞内液、➁間質、➂血管内の3つのコンパートメント」に分かれています。
このコンパートメントのそれぞれの間には、
「半透膜」があります。
➀細胞内と間質の間には「細胞膜」
➁間質と血管内の間には「毛細血管壁」があります。
細胞膜
「細胞膜」は、水と尿素は通しますが
電解質(Naなど)や糖は通しません。
毛細血管壁
「毛細血管壁」は、水や電解質は通しますが
分子量の大きいアルブミンなどのタンパクは通しません。
それでは、もう少し「細胞膜」についてみていきます。
この細胞膜は、細胞内液と間質の間にあり、水は通すけど電解質は通さないと言いました。(厳密にはNa‐Kチャネルなどあるけど、ここでは割愛します)
この細胞膜を通る水が、細胞内と細胞外を移動するにはある法則が存在します。
張度(有効浸透圧とも言う)
その法則とは、「水は濃度の薄い方から濃い方へ移動する」ということです。
濃い方を薄めて、濃度を均一にしようと水は動くんですね。
ここでいう濃度とは、「細胞内と細胞外にあるそれぞれの電解質の数」で決まります。
通常は細胞内と細胞外の(浸透圧)濃度はほぼ同じですが、
例えば、細胞外のNaの濃度が上がると、細胞内の水は細胞外へ引っ張られます。
逆に、細胞外のNaの濃度が下がると、細胞外の水は細胞内へ引っ張られます。
この細胞の内側と外側への水の移動を規定しているものを、
専門用語で「張度(有効浸透圧とも言う)」と言います。
頭の片隅にでも置いといてください!
ここまでの内容を踏まえたうえで、
冒頭の問題のような状況の時に、なぜ生理食塩液が選択されるのか?
をみていきます。
生理食塩液vs 5%ブドウ糖液vs3号液(ソリタT3)
ここからは、
➀生理食塩液
➁5%ブドウ糖液
➂3号液(ソリタT3)
を投与した時のそれぞれ違いをみていきます。
それぞれ1000mlを輸液投与したとします。
- 生理食塩液は250ml
- 5%ブドウ糖液は83ml
- ソリタT3(3号液)は139ml
が血管内に残りました。
なぜこんなに違うのでしょうか?
生理食塩液を投与した場合からみていきます。
生理食塩液投与後の体内への水の分布
生理食塩液を投与すると、投与した水分は体内でこのように分布します。
体内の水の分布は8:3:1ですが、
投与した生理食塩液は「血管内」と「間質」にしか分布しません。
生理食塩液が細胞外液(間質と血管内)にしか分布しない理由とは?
輸液は静脈から投与されるので、まずは必ず血管内に分布されます。
そして血管内から毛細血管壁を通って間質へいきます。
毛細血管壁は、分子量の大きいアルブミンは通さないですが
水や電解質は通過し放題です。
生食にはNaとClしか含まれていないので、問題なく通れます。
つぎに、投与された生理食塩液は、細胞膜を通って間質から細胞内へ行こうとします。
しかし、細胞膜は電解質は通れません。
また、生理食塩液と細胞外液の張度は同じなので
細胞膜を介した水の移動はありません。
つまり投与された生理食塩液は、間質と血管内のみの分布となり
これらの体液分布は3:1であるため、
投与した生食1000mlのうち、血管内に250ml投与されたということがイメージできると思います。
つぎに5%ブドウ糖液、を投与した場合をみていきましょう!
5%ブドウ糖液投与後の体内への水の分布
5%ブドウ糖液を投与します。
ブドウ糖は血管内に入ると、すぐに分解されます。
結果として5%ブドウ糖液は、ただの水になります。
水は、毛細血管壁も細胞膜も自由に通ることができるので
8:3:1の割合で体内の水分として分布していきます。
つまり、5%ブドウ糖液を1000ml投与すると
血管内には83mlしか水が入りません。
「水をいれたいなら、最初から蒸留水を入れたらよいのでは?」と思う方がいるかもしれません。
蒸留水を血管内にいれたらどうなるか?
みていきましょう。
蒸留水投与したらダメな理由
通常、血漿の浸透圧は290mOsm/L(ミリオスモル)で、
赤血球の浸透圧も同等の値です。
蒸留水の浸透圧は「0」です。
そのため蒸留水を輸液すると、血漿浸透圧が下がります。
その結果、血漿の浸透圧は赤血球よりも低くなります。
ここで大原則を思い出してください。
「水は濃度の薄いほうから、高いほうへ移動する」
つまり、血漿にある水分が赤血球内へどんどん移動してしまい、
結果として赤血球は溶血してしまいます。
5%ブドウ糖液の浸透圧は278mOsm/Lで、血漿浸透圧とほぼ同じなので、溶血をおこさずに体内に水を補充することができるんですね。
では、最後に3号液についてみていきます。
1号液(ソリタT1)&3号液(ソリタT3)投与後の体内への水の分布
3号液をはじめとした「〇〇号液」とよばれる輸液製剤は、
基本的には「生理食塩液」と「5%ブドウ糖液」を混ぜてつくられています。
それでは、臨床でよく使用されているソリタT1とソリタT3をみていきましょう。
1号液(ソリタT1)投与後の体内への水の分布
まずは、1号液であるソリタT1です。
ソリタT1は3/5が生理食塩液、2/5が5%ブドウ糖液でつくられている
というイメージです。
「ソリタT1を1000ml投与することは、生食600mlと5%ブドウ糖液400mlを投与している」という感じです。
そのため、ソリタT1を1000ml投与すると、体内への水の分布はこのようになります。
細胞内267ml、間質550ml、血管内183ml。
ちなみに1号液はKが入っていないので、腎機能が悪くても比較的安全に使用できる輸液製剤です。
「開始液」なんて呼ばれています。
3号液(ソリタT3)投与後の体内への水の分布
つぎに、3号液についてみていきます。
3号液であるソリタT3は、1/3の生理食塩液と2/3の5%ブドウ糖液を混ぜてつくられているというイメージです。
ソリタT3を1000ml投与すると、体内への水の分布はこんな感じです。
細胞内447ml、間質414ml、血管内139ml。
ちなみに、この3号液は体重60kgの人に対して一日2000mlを投与すると、一日に必要な水分、電解質を補うことができるため「維持液」と呼ばれています。
ここまでは、生理食塩液・5%ブドウ糖液・3号液が、それぞれどのように体内の各コンパ―トメントへ分布していくかをみていきました。
ここで、冒頭の問題を思い出してください!
出血により循環血液量が低下し、血圧が低下している状況で
仮に「血管内に500mlの水分を入れたい」と仮定した場合、
それぞれの輸液を計算上、具体的にどのくらい投与すれば良いのかをみてみましょう。
500mlの水分は血管内に入れたい場合、生理食塩液、5%ブドウ糖液、3号液(ソリタT3)はどのくらい必要か?
「血管内に500mlの水分を入れる」場合、各輸液製剤をどのくらい投与すれば良いのか?イメージできるように、みていきましょう!
下の図をみてください!
- 生理食塩液は500mlの輸液バックが4本必要です。
- 5%ブドウ糖液は500mlのバックが12本も必要です。
- ソリタ3号液は7本必要です。
これはあくまで計算上のものであって、実際には患者さんの状態によって異なってきます。
輸液の種類によって「こんなにも違いがあるんだー」ということをイメージしていただけら幸いです。
この中で、生理食塩液が一番効率的に血管内に水分を入れることができるのは、投与した輸液が「細胞外液にのみ分布する」からです!
そのため、生食は「細胞外液補充液」と呼ばれています。
つぎに生食と同じく細胞外液補充液である
「リンゲル液」についてみていきます!
リンゲル液の解説
「リンゲル液ってなーに?」と思った方はいますか?
下の輸液製剤をみてください!
これらの輸液製剤は、私の施設で使用されている「乳酸リンゲル液」「酢酸リンゲル」「重炭酸リンゲル液」です。
リンゲル液は、臨床でよく使用される輸液製剤の一つです。
「リンゲル液」は生理食塩液よりも血漿の成分に近い輸液です。
生理食塩液の成分はNa(154mEq/L)とCl(154mEq/L)しか入っておらず、血漿の成分と見比べてみても陽イオンであるKやCaは入っていません。
「生理食塩液」と呼ばれていますが、
こうみると「生理的」とはなかなか言えたものではありません。
リンゲル液の誕生
そこで「シドニー・リンゲル」という博士が、「リンゲル液」を開発しました。
このリンゲル液はKやCaが含まれており、
生理食塩液よりも血漿(の電解質の組成)に近い輸液製剤です。
ただし、このリンゲル博士が開発したリンゲル液も、生理食塩液同様にClが多く含まれています。
そのため、多くの量を輸液してしまうと、高Cl性の代謝性アシドーシスを引き起こしてしまう危険がありました。
乳酸リンゲル液の誕生
時を経て、このリンゲル液は「ハルトマン博士」によって、さらに改良されました。
緩衝剤として「乳酸」を投与することで、
従来のリンゲル液よりCl濃度が低くなりました。
「乳酸リンゲル液」の誕生です!
「乳酸リンゲル液」に続き、緩衝材として酢酸を含んだ「酢酸リンゲル液」、重炭酸を含んだ「重炭酸リンゲル液」が続々とでてきました。
現在、「リンゲル液」と呼ばれている輸液製剤は、従来のものではなく、皆さんの施設でもよく見かけるであろう、上にある製剤を「リンゲル液」と呼んでいることが多いと思います。
このリンゲル液は、細胞外液と張度が同等であるため、
生理食塩液と同じく間質と血管内にのみ分布されます。
ちなみに
「500mlの水分を血管内に入れたい選手権」では、リンゲル液は500mlを4本投与することが必要であり、生理食塩液と同率の一位になります。
おまけ:アルブミン製剤について解説(5%、20%、25%)
最後に、細胞外液補充液よりも、効率よく血管内に水分を投与することのできる製剤を紹介します。
それはアルブミン製剤です。
アルブミン製剤がなぜ効率よく血管内に水分を投与することのできるのか?その理由を解説していきます!
アルブミン製剤を投与します。
静脈から投与するので、まずは血管内へ分布します。
血管内と間質の間にある「毛細血管壁」は分子量の多いアルブミンは通しません。
そのため、
理論上は投与したアルブミンは100%血管内に分布することになります。
「500mlの水分を血管内に入れたい」場合、5%アルブミン製剤250mlを2本投与したら完了です!
ぶっちきりの一位です。
(※あくまで理論上で、患者さんの状態によって異なります)
5%アルブミン製剤は等張アルブミン
ちなみに、アルブミン製剤は5%、20%、25%があります。
5%アルブミン製剤は、血管内のアルブミン濃度とほぼ同じです。
そのため「等張アルブミン製剤」と呼ばれ、血圧低下時など血管内にボリュームを入れたい時に投与されます。
20%&25%アルブミン製剤は高張アルブミン
20%、25%のアルブミン製剤は、血管内のアルブミン濃度よりも濃いため「高張アルブミン製剤」と呼ばれています。
高張アルブミン(25%)を投与すると、血管内のアルブミン濃度が上がります。
アルブミン濃度が上がることで膠質浸透圧が上昇し、その結果として間質から血管内へ水が引き込まれます。
肝硬変の時の難治性腹水の管理などに使用される場合があります。
第一選択にアルブミン製剤を投与するべきか?
ここまでの説明を聞いて、「一番効率よく血管内に水分を入れるのはアルブミン製剤が良さそう」と思うかもしれません。
しかし、今までの多くの研究結果では、
「アルブミン製剤が細胞外液補充液よりも患者の予後を改善する」
というデータはでていません。
さらに言うと、
アルブミン製剤は血漿分画製剤です。
そのため、発生頻度は低いかもしれませんが、アナフィラキシーや蕁麻疹などのアレルギー反応が起こる可能性もあります。値段も高いという欠点があり、バンバン使用するには費用対効果が高いとは言えません。
最後に問題を解いてみよう
では、最後に冒頭に出した問題を今一度解いてみてください!
<問題>
術後患者のドレーンから多量の血性排液が認められ、血圧が低下しました。
血圧80/55mmhg、心拍数120回/分、呼吸数22回/分。
急いで、医師に報告したところ、「診察にいきます。下肢挙上して、〇〇(輸液製剤名)を全開投与してください」と指示をうけました。
「この〇〇にあてはまる輸液製剤を、次の中から一つ選んでください!」
➀生理食塩液
➁5%ブドウ糖液
➂3号液(ソリタT3)
なぜ、その解答を選んだのか?
理由が分かれば、今回の記事の役割は達成です!
✅参考文献
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