やばっ。明日TARの受け持ちだー。
弓部大動脈置換って何に注意するんだっけ。。
弓部大動脈置換術に苦手意識を持っている方多いと思います。
解剖がよく分からない
脳梗塞のリスクがあるんだっけ?
脳分離循環ってなに?
この記事では、
弓部大動脈置換術後の看護のポイントをできるだけ分かりやすく解説していきます。
それではさっそく始めていきましょう!
大動脈弓部ってどこ?
この大動脈弓部からは、3つの血管が枝分かれしています。
➀腕頭動脈、➁左総頸動脈、➂左鎖骨下動脈です。
これを『弓部3分枝』と言います。
➀腕頭動脈は、名前の通り、腕と頭に血液を送る動脈です。
右上肢へ向かう右鎖骨下動脈
と
右頭頸部へ向かう右総頸動脈に枝分かれします。
ちなみに、
腕頭動脈はBCA、総頸動脈はCCA、鎖骨下動脈はSCA
と略されるよ!
※鎖骨下動脈(SCA)は、腋窩に入ると腋窩動脈、上肢に入ると上腕動脈と名前が変わります。
次は➁左総頸動脈と➂左鎖骨下動脈です!
左総頚動脈(左CCA)は、左頭頸部を血流します。
左鎖骨下動脈(左SCA)は、左上肢に向かう動脈で、腋窩動脈・上腕動脈と続きます。
右側の血流は、大動脈弓→BCA→右CCAと右SCAに分かれてる。
対して、左側の血流は大動脈弓→左CCAと左SCAに分かれてる。
大動脈弓から直接枝分かれしてるのは、BCA、左CCA、左SCA。
だからこの3つの血管を『弓部3分枝』と言います!
弓部大動脈置換術の種類
弓部大動脈に瘤や解離が生じた場合、弓部大動脈置換術が行われます。
動脈瘤の範囲によって、再建する弓部分枝の数が異なります。
再建する範囲に伴い、opeは以下の3つに分かれます。
➀全弓部大動脈置換術:弓部3分枝と大動脈弓部を人工血管に置き換える
英語訳はtotal arch replacementで、カルテでは「TAR」と表記されたり、医療者間では「トータルアーチ」と呼ばれたりしてるよ!
➁部分弓部置換術:置換する弓部分枝は1~2本
➂ヘミアーチ置換術:弓部分枝を再建せずに置換する方法
脳や上肢に血液を送る「弓部3分枝」を再建するTARは合併症のリスクが高いと言えますね!
手術の特徴
ここからは、弓部置換術の中でもリスクの高いTARについてみていきます。
まずは、手術の流れです!
TARは人工心肺装置を用いて、体外循環下で手術を行います。
人工心肺を確立し、目標体温まで冷却した後に、心筋保護液注入し心停止とします。
体外循環の注意点は↓の記事を参照して下さい。
体外循環が身体へ及ぼす影響 ~人工心肺の注意点を理解しよう~
弓部大動脈のopeでは、解離や血管壁の脆弱化、プラークなどで上行大動脈に送血管を挿入できないことがあります。
その場合は、腋窩動脈(右SCAを切開)や大腿動脈(鼠径部を切開)からの送血を組み合わせます。
心停止にした後、実際に弓部大動脈を置換をしていきます。
ここで皆さんに知ってほしいことがあります!
弓部大動脈手術には、特有のポイントが2つあります。
- 循環停止下でopeをすること
- 脳分離循環を行うこと
循環停止?脳分離循環?
大丈夫!順番に解説していきます!
循環停止
弓部大動脈の手術では、血流を止めなくては、術野を確保できません。
大動脈を切開すると、血液があふれてきて見えにくいんだー
そのため、
人工心肺のポンプを止めた状態で手術を行います。
ちょっ、ちょっとまって!
人工心肺を止めてる間は、血液が流れてないってこと?
そうです。
循環停止下では、全身の血液循環が完全になくなる状態になります。
全身に血がめぐらないということは、各臓器が虚血状態になり、臓器が障害していきます。
そのため、低体温にして脳、脊髄、心臓、腎臓などの酸素消費量を少なくし、臓器保護を行います。
そのため、
循環停止中に脳へ送血する脳分離循環という方法を用いて安全な手術時間を確保します。
脳分離循環
脳分離循環って!?
脳分離循環とは、
体循環とは別の脳循環用のポンプを使って、
脳障害を防ぐために行うんだよ!
この脳分離循環には、
回路構成により「逆行性脳灌流(RCP)」と「順行性選択的脳灌流法(SCP)」があり、利点と欠点が異なります。
順に説明していくよ!
逆行性脳灌流法(RCP)
逆行性脳灌流法(RCP)ってなに!?
一言で言うと、
脳へ血液を送る順路が通常とは逆になる循環方法だよ!
通常は、大動脈弓→➀BCA→➁右CCA→右側の脳へ循環、➂左CCA→左側の脳へ循環します。
通常の血液の流れは動脈→静脈なんだけど、
逆行性脳灌流法(RCP)は静脈→動脈。
具体的には、➀上大静脈→➁脳→➂CCAの順路で脳灌流を行うんだ。
体循環とは別の脳循環用のポンプを使って、脳へ血液を送るYO!
通常の体外循環回路を用いて、
上大静脈に挿入した脱血カニューレから、
脳へ逆行性(➀上大静脈→➁脳→➂CCA)に血液を送ります。
- 逆行性であり、順行性に比べて脳への送血は不確実になる。
- 非生理的な静脈圧がかかることで、静脈外へ水分が漏れて、脳浮腫を起こすリスクあり。
- 超低体温(中枢温16~18℃)との併用が必要であり、血液凝固能の低下による易出血のリスクあり。
順行性選択的脳灌流法(SCP)
逆行性脳灌流法(RCP)は、なんとなく分かりました!
てことは、順行性選択的脳灌流法(SCP)は、動脈→脳→静脈の通常の循環ってことですね?
そうだね。SCPも説明していくね!
順行性選択的脳灌流法(SCP)は、3分枝(BCA、左CCA、左SCA)を切断後、それぞれの動脈にバルーン付きの送血用カニューレを挿入し、ポンプを用いて脳灌流を行います。
弓部3分枝に送血用のカニューレを挿れて、脳循環用のポンプを使い、
順行性に脳へ血流を送ります。
- RCPに比べて生理的な循環であり、脳への送血がRCPよりも確実。
- RCPよりも体温を高めに管理できる(23~28℃)ため、RCPよりも血液凝固能の低下から易出血のリスク低い。
- 弓部分枝に送血カニューレを直接挿入するので、動脈硬化病変による内膜損傷→血栓などを送ることでの脳梗塞のリスクあり。
- 術野が確保しにくい。
RCP、SCPそれぞれの循環方法を踏まえて、
術後に起こりやすい合併症に注意することが大切ですね!
看護のポイント
最後に、術後の看護のポイントを見ていきます。
看護のポイントは以下3つです。
- 脳梗塞に注意
- 出血に注意
- 誤嚥に注意
体外循環下のopeのため、体外循環後の看護のポイントもチェックしておきましょう!
体外循環が身体へ及ぼす影響 ~人工心肺の注意点を理解しよう~
それでは
順番にみていこう!
脳梗塞に注意
大動脈弓部には、脳や上肢への栄養血管である弓部3分枝(➀腕頭動脈、➁左総頸動脈、➂左鎖骨下動脈)があります。
大動脈弓部置換術は、この部分を置換する手術であり、さらには脳分離循環を行います。
上記の術式からも分かるように、
術後は脳虚血や塞栓物質による脳梗塞などの脳合併症を来す可能性がある!
術直後から、覚醒状況や四肢麻痺の有無、瞳孔不同や対光反射の有無、けいれんの有無に注意して観察しましょう。
脳梗塞は治療開始の時期によって、患者さんの予後を大きく左右します。
上記所見あれば、ただちに医師へ報告しましょう!
出血に注意
術中は人工心肺を使用するので、その影響で出血しやすい状況となっています。
人工心肺の影響は以下の記事をチェックしておこう。
体外循環が身体へ及ぼす影響 ~人工心肺の注意点を理解しよう~
まずは、各種ドレーンからの排液を確認し、
血性が強くなってないか?排液量が急増していないか?を確認していきます。
また、術後に高血圧が持続すると、吻合部に負荷がかかり出血しやすくなります。
血圧管理基準を医師に確認し、血圧を指示範囲内でコントロールできるように管理が必要です。
出血予防はSBP(収縮期血圧)、臓器灌流はMAP(平均血圧)で管理しましょう!
SBP、MAP等の各血圧管理の意味合いは以下記事を参照下さい。
「血圧低いなー」ってどの血圧を見て判断してる? ~「収縮期」「拡張期」「平均」を使い分けできる看護師になるために~
血圧管理をしながら、ドレーンの排液量や性状を観察していき、術後出血していないかモニタリングをしていきます。
ドレーンからの出血量が多い場合は、再開胸止血術が考慮されます。。
誤嚥に注意
大動脈弓部周囲には半回神経が通っています。
引用元:いちからわかる超入門 消火器外科看護マニュアル 辻仲利政 メディカ出版 P251
弓部大動脈をくぐるように左反回神経が、腕頭動脈をくぐるように右反回神経が走行しています。
動脈瘤による圧迫や手術操作による損傷により声帯運動が障害され、
嗄声や嚥下障害が起こるリスクあります。
✅人工呼吸器からの離脱後に嗄声を認めた場合は、それが気管挿管による影響か、反回神経麻痺によるものか鑑別が必要です。
✅声帯が反閉鎖の状態では、可動性が低下し、誤嚥を起こしやすくなるため、注意が必要です。
加えて、術後の創部痛により咳嗽が思うようにできず、
十分に排痰できない場合には無気肺のリスクもでてきます。
初回の飲水時には誤嚥に注意しながら実施することや、鎮痛剤を使用ながら除痛を行うことが大切です。
まとめ
大動脈弓部には、弓部3分枝があります。
弓部3分枝は、上肢や脳へ血流を送っている重要な箇所です。
よって術後に脳梗塞が起こっていないか?注意が必要です。
また体外循環下でのopeによる易出血状態、反回神経が弓部大動脈の近く通っていることから反回神経麻痺など注意して観察が必要になります。
さらに、脳分離循環の理解も弓部置換術後の管理をする上では大切です。
RCPとSCPの循環方法や違いを把握し、術後の看護に生かしましょう。
この記事がみなさんの臨床の役に立てば幸いです。
それでは、良い臨床を過ごしましょう!
参考文献は以下
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