突然ですが、あなたに質問があります。
PICSって分かりますか?
このPICSの視点って看護をするうえで
めちゃめちゃ重要な視点だと思います!
え?え?PICSってなんなのさ?
今回は
✅PICSとはなにか?
✅PICSの症状
✅PICSを予防するためには何をすれば良いか?
を学んでいきましょう!
それではさっそく始めていきます。
PICSとは?
✅日本語訳は「集中治療後症候群」
・ICU在室中、退室後、退院後に起こる➀運動 ➁認知 ➂精神 の障害
2012年に米国集中治療医学会(SCCM)が、PICSという概念を提唱したのよ!
2012年のPICSに提唱以来、PICS関連の報告が相次いでいます。例えば、4日以上の人工呼吸器管理を行っている患者の25~80%及び、敗血症の患者の50~75%に何らかの運動機能障害が発生し、またその後何年も衰弱した状態が遷延しています。65歳以上の重症敗血症患者では、敗血症発症後8年後も障害が遷延している可能性もあり、うつ・不安・睡眠障害が数か月から数年続くことがあります。10~50%の患者が心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder:PTSD)の症状を有し、これは8年間持続する可能性があります。
引用元:Expert Nurse 2019 8 Vol.35 No.9 照林社 P85
PICSが生じると、予後に悪影響が起こるんだね。
しかも長期。。
さらにPICSは、患者のみならず家族にも生じる可能性があります。
PICS-F
ICUでの加療は、患者の家族にも精神的な負担を与えます。
PICS-Family(PICS-F) と名づけられています。
PICS-Fとは、重症患者の家族の精神障害です。
PICS-Fは、うつ・不安・PTSD(心的外傷ストレス障害)等で構成され、その有病率は20~40%と言われています。
PICS、PICS-Fという概念があることを知り、
それに対して援助を行うことがNsの腕の見せ所だと思います!
PICSに対しての看護のポイント
ここで、PICSとPICS-Fのおさらいをしておきましょう!
✅PICSとは、
ICU在室中、退室後、退院後に起こる、患者の➀運動 ➁認知 ➂精神 の障害でしたね。
✅PICS-Fは、
ICU在室中、退室後、退院後に起こる、重症患者の家族の精神障害でしたね。
それでは、PICS、PICS-Fに対して
症状ごとに、どのような援助ができるのか考えていきましょう。
運動機能障害 ICU-AW
運動機能障害の中でも代表的なものに、ICU-AWという概念があります。
日本語では、ICU獲得性筋力低下(ICU-AW)
症状を一言で言うと、全身の筋力低下です。
ICU-AWは、ICUって名前がついてるけど、一般病棟でも認める場合があります。
ICU-AWを発症すると、
在院日数が延長し、機能回復が遅れ、死亡率が増加するなど
予後不良になることが明らかになってるんだって。
✅ICU-AWは診断基準があります。
➀➁➄+➂or④を満たすとICU-AWと診断されるわよ!
MRC scoreは後述します。
MRC score
ICU-AWの診断基準の一つにMRC scoreがあります。
正確にMRC scoreを測定するための順序(①~➂)をみていくわよ!
➀随意筋の評価をするので、患者さんが協力できるか確認
5つの質問(1.目の開閉、2.私を見て、3.舌を出して、4.頷いて、5.眉毛をあげて)
もしくは、CAM-ICU(せん妄スケール)で確認。
認知機能低下やせん妄の場合は、MRCscoreは測定できないようです。
➁体位を整える
標準的な体位は
重力に抗した運動をする場合はヘッドUP45度、
重力に排除した運動する場合はヘッドUP10度です。
➂測定を実施
➁の標準的な体位にて、測定を行います。
※下の基準にそって、0~5段階で評価します。
まずは、スクリーニングとして、
上肢の挙上が可能か?膝立てが可能か?を評価しましょう。
もしできなければ、ICU-AWを疑いましょう。
実際の診断は、左右の肩関節外転、肘関節屈曲、手関節背屈、股関節屈曲、膝関節伸展、足関節背屈の筋力を標準的な方法で測定する必要があります。
評価方法の詳細は、以下サイトをご参照下さい。
https://www.rishou.org/wp-content/uploads/2019/10/MRC_score_J.pdf
早期離床に向けたリハビリを実施
ICU入室後48時間以内に早期離床の取り組みが開始されることが望ましいです。
ICUでの早期リハビリは筋力低下を予防し、ICU-AW発症の割合が低下したとの報告もあるのよ!
重症患者は疲労しやすく、長時間持続した活動は難しいので、
リハビリは少量頻回がポイントです!
ケアをしていく中で、患者には「自分でできることは自分でする」ことを取り入れることが大切です。
例えば
- 体位変換時は、ベッド柵を掴み身体を動かしてもらう
- 寝衣交換時は、臀部挙上、上下肢の挙上をしてもらう
など、一回の活動量は少なくても、何度も行うことで十分トレーニングなります。
徐々に活動量を増やし、安全に配慮したうえで早期離床を目指しましょう!
認知機能障害
ICUという環境は日常生活とかけ離れています。
・モニター音、アラーム音
・時には痛みを伴う処置や検査が頻回にある
・プライバシーのないベッド環境
・多くのスタッフが入れ替わり入ってくる etc
自分の身に置き換えて想像しただけでも
気が狂って、せん妄になりそうです(笑)
ICUでのせん妄は、
長期にわたる認知機能障害と関連していると言われているわ
せん妄発症を予防するためには、昼夜のリズムをつけることが大切です。
具体的には、
- 日中のリハビリ、家族の面会
- 時間が分かるように時計の設置
- 窓がある部屋への移動(日差しの入りや外の風景を見ることができる)
- 夜間は環境音を最小限にする(PHSはマナーモード、部屋のドアは閉めるetc)
- 睡眠剤の調整
季節や日時が分かるように、
カレンダーの設置も家族に依頼するのも◎!
精神障害予防
PICSの精神障害を構成する要素は
- うつ病
- 不安
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
重症患者の生存者のうち、30%はうつ状態、70%は不安に苦しみ、10~50%はPTSDを発症するんだって。。
そのため、できる限りの精神的なアセスメントを行い、適切な対応を行うことが大切です。
精神障害に対する援助の一つとして、「ICU日記」というツールがあります。
ICU日記は集中治療によって歪んでしまった記憶を正し、心理的回復を促すツールとして注目されています。これは、ICU滞在中に医療者・家族が患者の様子を書き綴り、患者の経験を説明するために保管しておくものであり、HarveyらはPICS発症の予防戦略の一つとして紹介しています。ICU日記は、患者の立ち位置や現在の状況などの見当識の把握を助け、不安・抑うつ・PTSD症状を軽減することにより、PICSを予防する可能性があります。日記をつけることは、患者のみならず家族のPTSD症状を減少させることが示されています。
引用元:Expert Nurse 2019 8 Vol.35 No.9 照林社 P96
✅ICU日記のポイント
- 患者、家族が安心してもらえるものだけを書く
- 抜管、離床、初めての食事など重要なイベントについて書く
- 繊細な状況や今後の方針など機密性のある情報は書かない
- 毎日書く、経過が変わりなくても1行は書く
- 患者、家族、医師、看護師、コメディカルなどの記載を歓迎する
開始時には、主治医から許可を得て、
患者・家族へICU日記を開始することを説明してね
PICS-F
PICS-F(PICS-Family)は、重症患者の家族の精神障害です。
患者の精神障害が重度であるほどPICS-Fも重度であると言われています。
PICS-Fの予防と対策としては、
まずは患者の回復を支援するケアが重要になります!
原疾患の治療に加えて、
上述した➀運動障害➁認知障害➂精神障害に対しての援助が大切です。
また、家族は患者に何が起きているか分からない恐怖や、何もできないことによる無力感を感じています。
これは、家族の精神的負担を増やし、PICS-Fを生じさせます。
そのため、
➀できごとの正しい理解 と ➁役割の再獲得が重要です。
具体的には、
- 共感的傾聴
- 適切な情報提供
- ケアへの参加
を支援します。
1.面会時には、家族の思いや理解状況の確認をします。
2.必要時は、医師からの病状説明を調整したり、日常の様子を家族を伝えましょう。
3.家族のケアへ参加は無力感の軽減に有効です。
家族の受け止め状況をみながら、保湿剤を塗ったり、手足の曲げ伸ばしやマッサージなど、家族へケアの参加を促すのも良いでしょう。
一つ一つのケアの意味づけを行い、家族が納得したうえで参加できることが重要。
家族のケアへの参加は、「私は大切な人の回復促進に関わっている」「家族の役割を果たせている」と少しでも感じてもらえることが大切です。
ここまで、PICS、PICS-Fに対して様々な援助を取り上げてきました。
最後に、PICS、PICS-Fの予防策の代表である「ABCDEFGHバンドル」を紹介して終わりとします。
ABCDEFGHバンドル
まずは、
ABCDEバンドルからみていきましょう。
ABCDEバンドルとは?
これは、人工呼吸器装着患者のPICS対策をABCDEの頭文字で表したもので、2010年ごろから提唱され始めたものよ。
- 毎日のSAT(自発覚醒トライアル)
- 鎮痛薬を最小にし、鎮静レベルを浅くする
- 毎日のSBT(自発呼吸トライアル)
- 早期の人工呼吸器離脱
- 毎日のSAT+SBT
- 鎮静・鎮痛薬の選択(浅鎮静、ベンゾジアゼピン系は避ける)
- CAM-ICUまたはICDSCを使用したせん妄の評価
- 過活動型せん妄へはハロペリドール、低活動型せん妄の発見
CAM-ICUとICDSCはせん妄評価ツールよ。
ここでは説明しないから、分からない人はググってみて。
せん妄も過活動と低活動と2種類あるのよね。
- ICU-AWの評価
- 積極的すぎない、早期リハビリ
バイタルサインや症状に合わせて、
ベッドアップ座位→端坐位→立位→足踏み→歩行など順序立てて進めていこう!
さ・ら・に!!
PICS-Fを予防するために「FGH」が加わり、ABCDEFGHバンドルとなりました。
- 患者、家族と意思決定や治療計画を行う
- PICS、PICS-Fに関する情報を転院先の紹介状へ記載する
- 患者の状態や実施した検査、治療などの情報を申し送る
- 標準的な申し送り用紙を使用する
PICS、PICS-Fに関する情報を盛り込みましょう!
- PICSやPICS-Fに関しての患者・家族情報を書面で、患者家族へ渡す
- PICS、PICS-Fに関するパンフレットを活用する
ICU日記の活用もここに分類されるわ!
ABCDEFGHバンドルを活用し日々の援助を行うことが
PICS、PICS-F予防に対して大切です。
まとめ
それでは、まとめです!
✅PICS、PICS-Fとはなにか?
- PICSは、ICU在室中、退室後、退院後に起こる、患者の➀運動 ➁認知 ➂精神の障害
- PICS-Fは、ICU在室中、退室後、退院後に起こる、重症患者の家族の精神障害
✅PICS、PICS-Fの看護のポイント
- 運動障害→ICU-AWの評価をMRCscoreで行いながら、早期リハビリを行う。自分でできることは実施してもらい、「少量頻回」を意識ながら安全に行う。
- 認知障害→ICUの環境は異常。昼夜のリズムをつけるために、日中は活動、夜間は休息できる環境調整が必要。
- 精神障害→思いの確認や必要時には精神科へのコンサル、ICU日記をつけることも検討しよう!
- PICS-F→患者の状態によって一喜一憂しやすい。患者の状態回復の援助が重要。家族を置き去りにせず、「できごとの正しい理解」と「役割の再獲得」ができるように支援することが大切。
- ABCDEFGHバンドルを活用して、PICS、PICS-F予防を行おう!
どれだけ気づけて、どれだけ関わることができるか?多職種を巻き込むことができるか?
患者、家族と多くの時間を共にする看護師だからこそ、できることがたくさんあると思います。
少しでも日々の臨床に生かすことができれば幸いです!
コメント